金澤流儀 桜巡り

その昔兼好法師が徒然草に「桜は咲き始めた頃から雨風が続いて・・心忙しく散り終わってしまう」
と書き記しているけど(第19段)春の嵐があまり吹かない金澤では桜を楽しめる期間が比較的長い。(経験的には東京よりも一週間くらい、開花から散るまでが長い)
藩政期にお殿様が城から桜霞を観るために遠方に植えた桜、兼六園に集められた様々な桜(ここにしかないモノも含め約40種類)軍都として栄えた頃、戦勝記念とし て植えられた桜、その後もいろんな機会に植えられた桜達・・・そして東西に三本の台地が指を伸ばす地形の程よい高低差、日照差も加わり細やかな「桜ぷろぐらむ」がゆっくりゆっくり進行します。
左)西外惣構堀、柿木畠入り口付近 右)W坂

まずは細部に宿る金澤の桜。
椿の葉の上にも花片が載って・・・風が弱いコトがよく分かる光景。
マンホールも花化粧。春の優しい小糠雨が花の色を鮮やかに、そして蒔絵の漆のように花びらを定着させて。
これも花見、桜風情。(兼好法師が現代に生きていたら書き記しそう!?)
金澤の伝統工芸はこういう何気ない日常からも日々新たな影響を受けているのだと思います。


わざわざ何処かへ出かけなくとも旧市街全体のあちらこちらに桜の見所が出現する金澤。兼六園から徒歩15分ほどの住宅地笠舞、小立野段丘中腹にあるこの公園もささやかな桜の名所。
無風の夜、柔らかい柔らかい雨が音もなく降って花々をしっとり濡らて、艶めきながら徐々に徐々に・・・枝垂れてくる桜を眺めるのも金澤らしい味わい。(ここで風が吹けばパラパラと散りゆくトコロだろうけど、それは滅多にない)


兼六園の脇、上坂口を降りた辺りから桜ヶ岡口方面を眺める。
兼六坂との間に咲く、ほぼ満開を迎えたバラエティーに富んだ桜達。夜の冷え込みが花を締めるのか?花片が枝から離れるコトはあまりなく、道はキレイなまま。

石川橋(兼六園と金沢城を繋ぐ橋)から眺める桜揃え。
金澤での桜の醍醐味の一つ、遠近に散らばって配置された桜風景。こちらは大きく言えば犀川方面。振り返ると卯辰山方面。どちらも桜で溢れて・・・。ここから毎年の桜始終を眺めるのはとても幸せ。ちょっぴりお殿様気分♫
夜になると石垣の下、その昔はお堀だった沈床園はお花見の特等席に兼六園も夜桜見物でにぎわい(兼六園は桜の見頃に合わせて一週間ライトアップ無料開放。霞が池に迫り出す内橋亭をステージに一流奏者によるミニコンサート・・・つくづく豊かな街)

この時期、街中あちらこちらに桜の園が展開して、辺り一帯が桜の華やかさ、香りに包まれます。
通勤、通学、散歩コースとしても愛用している人達も大勢いらっしゃる桜名所の一つ、犀川桜橋〜大橋間の桜並木。(大橋は金澤の繁華街の一つ、片町に隣接する交通量の多い橋)
一年中この道を通って四季を味わう・・・金澤に暮らす日々の何気ない贅沢の一つです。
花片はほとんど真っ直ぐ下に落ちて、吹き寄せられるコトもなく、徐々に綺麗な絨毯を出現させます。


男川犀川(左)女川浅野川(右)二つの川原にも淡いピンクの絨毯が敷き詰められ・・・まだまだ桜の宴が楽しめます。
観ている人達も含め全体が幸せな桜景色。
二つの川がなぜ男女に例えられるのか・・・それぞれに金澤らしい魅力的な川の違いがこの写真からもなんとな〜くお分かりになるでしょうか?(空の開け具合、川岸の様子、桜の枝振りも違います・・そして当然川音も全然違います)


左)そろそろ地面に落ちている花片の方が多くなる頃。
しかし・・・満開と同じ位、あるいはそれ以上魅力的な光景。こちらは浅野川

右)石垣の僅かな段差にも花片が積み重なって延々続くピンクのラインが・・・こちらは犀川




笠舞の公園もすっかり桜化粧。ちょっと幻想的な雰囲気になってきました。


十日後くらいにはこんな風に・・・今度は萼から下が、辺り一面に散らばります。これも趣のある桜の余韻。


それからさらに約7日・・・八重桜の花が散るころに今度は兼六園菊桜が丁度見頃を迎え・・・一ヶ月近くにわたって続いた「桜ぷろぐらむ」はフィナーレを迎えます。
もう五月。ツツジ、菖蒲、杜若、そして竹の子の季節に金澤は入っていきます。

兼好法師は半ば逆説的に「桜の花は盛りだけを賞美するものだろうか・・散り萎れ残る庭も美しい」と書き記しましたが・・・(第137段)
金澤では、桜はゆっくりゆっくり移り変わり様々な賞美に値する景色をつくり・・・とりわけ意識せずとも長い間に渡って私達を楽しませてくれます。

いらっしゃる方は何度でも、可能ならある程度滞在されて、この・・・金澤ならではの桜風姿をお楽しみ下さい。